川遊び、虫取り、ホタル観賞、バーベキュー、星空観察、田植え、稲刈り、収穫野菜たっぷりのお鍋に餅つき大会…、一年を通して能勢の自然を思いっきり楽しめる【自然・農業体験】が、大阪のてっぺんのまち能勢町の最北端にある天王地区で行われています。 2010年からこの活動の中心となって取り組んでいるのが、天王生まれ、天王育ちの岡 繁(おか・しげる)さんです。
天王地区は、大阪市内から車で約1時間。能勢町に入って、古民家や田畑が点在するどこか昔懐かしい町並みを通り過ぎ、国道173号線の急な坂道をぐんぐん上ると現れる、標高約500mに位置する集落。北摂山系最高峰「深山(みやま)」の麓に広がっています。
集落の間近には四方を囲む山々、オオサンショウウオが棲むという天王川、そして家々のすぐそばには一面に広がる田畑。天王には、山の色づき、鳥や虫の音、植物の香りや旬の野菜と、繊細な季節の移りかわりを身近に全身で感じられる贅沢な環境があります。
人口は、岡さんが小学生だった40年前で300人。1学年5人ほどだったといいますが、年々減っていき、現在120人ほど。子どもは数人となりました。
今ではバスも走っていません。公共交通機関は、一切なし。
そんな活気が減っていく状況だからこそ、「もっと天王を元気にしたい」「もっと色んな人に天王を楽しんでもらいたい」という強い想いでおられる岡さん。
岡さんが見る天王にはどんな魅力が隠されているのか……天王のこと、農業体験のこと、参加するひとの声などのお話を伺いました。
天王ってどんなところですか。
「なんにもないです。まあいうなら、ほんまに大阪の一番端。隣の集落からだいぶ離れてるから、他の能勢町内は雪降ってへんのに、天王だけは雪降ってるとかね。能勢の中でも一番田舎と言ってもいいのかもしれへんな」
確かに国道173号線を走っていると、一旦集落が終わって、坂のてっぺんに天王が現れますよね。そんなてっぺんの中のてっぺんでの農業体験はどういう経緯で始まったのですか。
「もともとは2007年頃、ほ場整備(農地の区画や水路、農道等を整備するもの)が終わったあと田んぼは綺麗になったけど耕す人がいないから、『何とかせなあかん』ということから農業体験が始まりました。
天王は地理的にも独立してる場所やから、バスがなくなるとか、なんかあったら、『自分たちでどうにかせなあかん』っていう想いや、そのための団結力が強いように思います。祖父や父の代なんかもそういう気持ちがものすごい強かった。かつては小中学校が同じ校舎にあって、合同運動会のときは、全校生徒が少ないから地域の人みんなで行って、朝から晩まで一緒に競技をやったり。あれが普通の運動会やと思ってましたね。みんなで集まったら、どうしたらいいかという話をよくしてます。そんなかんじで始まった一つが農業体験です」
昔から、天王を元気にしたいという気持ちが地域に根付いていたんですね。農業体験を始められ、14年ほど経っていますが、現在は、どんな内容で行われていますか。
「毎回3~4組のご家族が参加されています。まずは自己紹介から始まって、4月には、じゃがいも植え、田植えの準備、山菜採り。5月には、田植え。6月になったら草引きしたり、公民館でカレーを作って、夜にはホタルを見たり。バーベキューや星空観察、稲刈り、深山のハイキングとか。冬には収穫した野菜で鍋とかもしてますね。今年は餅米も作ったんで、それで餅つき大会をしようという話にもなっています。
きっちりとしたプログラムがあるわけではなく、時期をみながら『今日はこれやりましょか!』みたいな感じですね。
将来的には、これまで体験をしていたOB・OGを集めて天王で同窓会とか植林体験もしてほしいと思ってます。自分が植えた木で何十年後かに家を建てはるときに使ってもらったり、天王の木でスプーンを作ったり。こんな企画ばっかり考えてる。私、楽しいことを考えているのが好きなので」
農業体験だけでなく、何年、何十年と天王と繋がるイベントは天王への親近感や愛着がより深まるように思います。参加者の方はこの農業体験をどう感じていらっしゃいますか。
「参加される親御さんの中には、食育のひとつとして食べるものの大切さを教えたいとおっしゃってる方もいます。自分の手で野菜やお米を育てる。そのあと、みんなで食べる。という、都会の日常では味わえない達成感に浸っている子もいはりますよ。
実はこの体験を始めたときに声掛けをして以降、正式に参加者を募集したことがないんですよ。参加者の友達のつながりで今まで続いてるんです。きっと天王から持って帰ったお野菜を近所に配るときに、『おもしろかったで、楽しかったで』ということでまた友達を連れてきてくれるんでしょうね。続けて天王へ来てくれるということは、みんなこの体験を楽しんでくれてるのかなと思います」
この体験は子どもだけでなく、大人も楽しめますよね。自分で採った野菜でどんな料理を作ろうか、次に来るとき、この野菜はどのくらい大きくなっているのかなど。なんだかワクワクしますよね。
この活動を通して、岡さんが目指すものは何ですか。
「農業体験を通じて、天王に移住してほしいとか、そういう人がいたらいいとは思います。でも僕は天王に来てくれるだけでも嬉しい。それだけでええとも思ってる。だって天王に人が来るってことだけで活気が生まれますやんか。
そして、『天王は心のふるさと』やと思ってほしいんです。都会で住んでる子たちは、ふるさと像がないと思うので、山があって川があって、田んぼがあって畑がある、そんな天王を『ふるさと』として帰ってきてもらえるような環境をつくりたいですね」
1971年3月10日生まれの50歳。現在、天王区長を務めている。(令和3年現在)。 高校・大学時代は天王を離れたが、社会人になると同時に天王へ戻る。会社員として忙しくする傍ら、農業体験に次ぐ新たな活動を企画しており、現在は天王の木を使ったグリンウッドワークに向けて練習中。