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一通目: 霜が降りたら、甘い冬の到来

はじめまして。能勢町で『四季の企画室 野の 福田商店』を営む福田愛です。これから、能勢の四季についての小文を綴っていきます。どうぞよろしくお願いいたします。

一通目: 霜が降りたら、甘い冬の到来

この町の冬のたよりは、11月の末ごろから聞こえてきます。ある若手農家が葱畑の写真を添えてSNSへ投稿していたのは、明日から12月という日でした。

「毎年、ハキダメギクが霜でやられると、いよいよ冬だな!と思います。畑で幅を利かせていたのに、昨日の朝の霜で一気に茶色くなって枯れました」

私の場合は、夜に霜の声がして、目覚めの窓に薄っすらと白い朝が広がっていると、冬のますますの近づきを感じますが、「ハキダメギク」で冬に気づくとは、農家ならではの視点でしょうか。これまでの私は気にも留めていなかったので、少し前に咲き誇っていた姿を思い浮かべ、確かめに行くことにしました。
すると、茶色とはいかないまでも、まさにやられ・・・ている。この花だけが縮んでいたのです。


例年の能勢では、11月のはじまりに初霜が降り、昼間の気温が10℃程まで下がる日があります。今年は違って、金木犀の花が帰り咲くなど、冬の気配は全くなし。初霜は11月半ばでした。その後しばらく、小春日和が続き、急に冷え込んだのは11月末。マイナス1、2℃まで下がった日も含め、三日続けて霜の朝。その三日目にハキダメギクが冬を告げたのです。

「ハキダメギク」を漢字にすると「掃溜菊」。名付け親は、日本植物学の父・牧野富太郎です。生涯で新種や新品種など約1500種類以上の植物を命名した権威ですが、この名を付けた理由は、ごみを捨てる掃き溜めで見つけたから。名は体を表していません。咲く姿が可愛らしいので、足を止め、カメラを向けたくなる人がいる程です。頻繁に見かけるので強そうに思えますが、実のところ、霜に弱かったとは新しい発見でした。


霜によって枯れるものは他にも多く、田んぼの孫稲もその一つ。生成り色へと次第に変わっていきます。

植物すべてが枯れていくかというと、そうではなく、畑に目を向ければ、霜の恩恵を感じずにはいられません。霜が降りても、青々、生き生きと。降りれば降りるほど、野菜の甘みが増していくのです。

白菜づくりの名人である私の父は、この時季の白菜は「ぎゅっぎゅっ」と締まっていき、甘みを増すのだとよく話します。寒さから身を守るため、凍らないように糖度を高めたい白菜は、水分を減らすので、ぎゅっぎゅっ。私にとって、白菜の結球は冬に近づく合図であり、初収穫は冬の到来。甘みが増した白菜を漬けるころは、冬本番。


みなさんは、冬の到来を何から感じますか。白菜、葱、大根、蕪…。能勢では、霜にあたって甘味を増し、一層美味しくなった野菜が、食べごろを迎えるころです。

 
四季の企画室 野の 福田商店のサイト

福田愛
(ふくだ・あい)

2019年秋、季節を知って感じて寄り添う暮らしの大切さを伝える店を能勢町今西ではじめる。フリーランスの編集者・ライター、QOLコーディネーターでもある。能勢の魅力を多方面へ発信しており、全国のクリエイターによる『私のマチオモイ帖』プロジェクトに【のせ帖】で参加(2011)。大阪府公園協会運営『OSOTO web』では、能勢を拠点に綴ったエッセイ【月を仰げば、満たされること~ひと呼吸の歳時記~】を連載(2012~2013)。他にも、ガイドブックに能勢の季節の楽しみ方を執筆(2014)、フリーぺーパー『能勢日和』を発行(2016)、能勢の夏を詠んだ句がNHKの番組で夏井いつき、壇蜜に選ばれる(2020)など。Twitterでは、2010年より能勢の季節の移ろいをつぶやいている。

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「のせむすび」は、能勢町で生活する人々の暮らし方や仕事ぶりなどを取材し、大阪のてっぺんから様々な情報を伝えるメディアです。
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能勢町は大阪府の最北端(てっぺん)に位置する人口9500人の町です。美しい棚田や樹齢千年以上の大ケヤキ、浄瑠璃やだんじりなど、先人から受け継いできた自然環境や伝統文化が残っています。
大阪・京都・神戸から1時間程で行ける、都会から一番近い里山です。

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