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第四回:『能勢の農業を担う』という価値。多様な農業のかたちが能勢の未来をつくる?

第四回:『能勢の農業を担う』という価値。多様な農業のかたちが能勢の未来をつくる?

どうも、高江です。

自分で畑をするようになってから初めての冬。畑での仕事もようやく落ち着きはじめましたが、まあうまくいかない1年目でした……。でも、これも楽しみ。毎年試行錯誤を繰り返し、観察と研究を繰り返す。畑から学ぶことは多し!(何を偉そうに言うてんねん笑)

世界情勢の影響は農業にもおよび、資材や肥料の高騰を嘆く農家さんの声を町内でもよく聞きます。

「マルチシート高なったわー」とか「肥料代こんなかかるんやったらやってられへんで」なんて。でも、どこか楽しそうだったり。気候や物価、さまざまな変化や向かい風にさらされても、弱音を吐いたってそう簡単に折れてしまわないのが真のお百姓さん。ここ能勢にもたくさんそんな方がおられるわけです。

 

環境のため?生活のため?地域のため? 少し感じる違和感。SDGsを断片的に見ているかも

令和3年5月、能勢町は地域資源が循環する里山の町としてその取組みが国から認められ、SDGs未来都市に選定されました。地域おこし協力隊第2号の江藤さんと連携している電力会社「株式会社能勢・豊能まちづくり」の活動のように、町内でも環境問題を自分ごととして捉えている町民の方もかなり増えてきているように感じます。

自然と暮らしをもっと近いものにした生活に憧れて、能勢に移住される方もおり、暮らしの中での消費行動にも家庭内でルールを決めている方も増えているのではないでしょうか?

 

一方で、そういった志向の消費者に響く見せ方で、『SDGs』という言葉を実態とは異なるビジネスとして打ち出す、いわゆるグリーンウォッシュが問題視されていたり……なんだかなぁという気持ちになっちゃったりするわけです。たとえ意図的ではなかったとしても、「環境のため、自然のため」と思っている行動や活動が視点を変えると疑問符がつくことってたくさんあるもんだなって協力隊として活動しているとますます感じるようになりました。

 

持続可能な開発目標を達成するためには、経済成長、社会的包摂、環境保護という3つの主要素を調和することが必要であると国際連合広報センターも提唱しており、SDGsの17の目標は個別で捉えるのではなく、総合的に捉えて社会課題や経済活動に取り組むべきであると言えます。

環境保護について強いインセンティブを持つ人が消費活動について多くのことを発信し、また自分でも実践するとき、その消費活動における生産者の経済性というものを度外視しても構わないというような思想が本人の気付かぬうちに根付いていたりするのではないかと僕は気になってしまいます。

 

どんな活動も自分以外の「何かのため」になると自身で信じる・そういう見せ方をすることでSDGsを謳うことができてしまう風潮に僕は少し違和感を持っており、僕自身もまさにそうなっていないかと客観視する時間や自問自答をすることがあります。能勢の自然環境・景観、町内で生業を営む方々、住民の生活を総合的に捉えたうえで、多様性を担保しながら持続可能や循環型社会を築くというのはそう簡単なことではないし、「〇〇のため」というのは独りよがりの正義になっていないかという視点を待っていないと誰かを傷つけ、多様性を阻害しかねないと危惧しています。

 

お百姓さんから感じるたくましさ。農はどんな形だってあり?

 

協力隊の仕事をする中で感じる『農に対する個々の捉え方』が、僕の頭のモヤモヤを生んでいるのかもしれません。

個々の捉え方に固執するのではなく、対話の場や何か実践による具体例を通して、他者理解や多くの事実認識を広げることで、ただ思想や考えが混在するだけのカオスな社会から認め合える多様性のある社会に移っていくのではないか、なんて考えるわけです。

 

僕の協力隊活動の主要である里山技塾を一緒に運営している先輩から、「農業は料理みたいなもの。料理を作るのと一緒で誰もが当たり前にやること。やらないといけないこと。プロの料理人になりたい人もいれば、冷蔵庫にあるものだけで適当に作りたい人もいるし、採算度外視で最高の料理を作りたい人もいる」という考え方を享受しました。その考え方を今まで消費者だった人に多様に体現してもらいたい、そういう思いで里山技塾を運営しています。講座をすることに目的があるのではなく、受講生が卒業後に町内に就農し、今まで農業とは距離のある仕事をしていた方が兼業農家として小さくも能勢の農業を担うようになる、そんな事例が毎年何件も出ることで多様な農業のやり方を町で認識し合える状況を醸成することを僕は目的に置いています。

 

農家の仕事は植物や土と触れ合うだけでなく、機械仕事から科学、土木や建築まであらゆる仕事の要素が詰まっている=百姓仕事であり、日本ではほとんどがそのお百姓さんとして古来よりあらゆる環境や社会の変化にも負けず対応してきました。そこで培われてきた逞しく生きる力が今日の多様な農業のあり方を育んだのだと考えています。能勢にもその培ってきたものが地元の方々の日々の営みのなかに今も生きており、そんな方々から僕や里山技塾の受講生が講座や就農を通して学ぶことができています。

 

地域の方が手作りした石垣。大きい石、小さい石がしっかりと組み合っている。

 

これまた、同じ先輩の言葉ですが、「堅牢な石垣には大きい石も小さい石も必要であるように、農村の担い手には大きい担い手も小さい担い手も必要」と教えていただきました。

引ける水の量や農地が点在してしまうなど、中山間地域であるこの町で農地の集約化にはある程度で限界があり、兼業で小さいからこそできる農業だってあります。大きければ、その農家または法人の継続が困難になったとき、それだけの農地に大きな穴が空きます。でも、小さければその穴をまた入れ替わり立ち替わりすることが比較的容易です。もちろん集約化がなければ、増え続ける耕作放棄地に小さい担い手ばかりで立ち行きできなくなることもあります。

だからこそ、石垣のように小さかろうが大きかろうがどんなやり方であろうが、『能勢の農業を担う』ということに価値があるわけです。

そして、その農業の門戸は広いということを、里山技塾の運営を通じて町の方々に伝えたいと思っています。

 

 

なんだか今回はなんか理屈っぽいことばかり書いてしまいましたね。

次回は「いろんな農業があっていいじゃない」という今回のテーマに沿った農家さんを何人かご紹介していきたいと思います!!

 

お楽しみに!

高江 直哉
(たかえ・なおや)

大学を卒業後、京都の高校で教師を務め、オーストラリアで日本語補助教員、JICAボランティアとしてブラジルで2年間貧困層の青少年に野球指導を行う。令和3年7月より能勢町地域おこし協力隊として活動、能勢なつかしさ推進協議会とともに「里山技塾」の運営に携わる。

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「のせむすび」は、能勢町で生活する人々の暮らし方や仕事ぶりなどを取材し、大阪のてっぺんから様々な情報を伝えるメディアです。
今まで知らなかった能勢の人やモノに出会い、新しい価値が広がり、この地に幸せな循環が生まれますように。

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能勢町は大阪府の最北端(てっぺん)に位置する人口9500人の町です。美しい棚田や樹齢千年以上の大ケヤキ、浄瑠璃やだんじりなど、先人から受け継いできた自然環境や伝統文化が残っています。
大阪・京都・神戸から1時間程で行ける、都会から一番近い里山です。

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